表題の如くの記事が各新聞で出回っている。
とりあえず、目に付いた読売新聞の記事を引用してみよう。
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抑うつなどの症状が続くうつ病の患者数(躁(そう)うつ病を含む)が、初めて100万人を超えたことが3日、厚生労働省が3年ごとに実施している患者調査でわかった。
長引く不況などが背景とみられる一方、新しい抗うつ薬の登場が患者増につながっていると指摘する声もある。
患者調査によると、うつ病が大半を占める「気分障害」の患者数は、1996年に43万3000人、99年は44万1000人とほぼ横ばいだったが、2002年調査から71万1000人と急増し、今回の08年調査では、104万1000人に達した。
10年足らずで2・4倍に急増していることについて、杏林大保健学部の田島治教授(精神科医)は、「うつ病の啓発が進み、軽症者の受診増も一因」と指摘する。
うつ病患者の増加は、新しいタイプの抗うつ薬が国内でも相次いで発売された時期と重なる。パナソニック健康保険組合予防医療部の冨高辰一郎部長(精神科医)は、「軽症のうつは自然に治るものも多い。しかし日本ではうつを早く発見し、薬を飲めば治るという流れが続いており、本来必要がない人までが、薬物治療を受けている面があるのではないか」と話す。
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相変わらず、馬鹿なマスコミ。
かつて、外科時代に私の患者さんであったとあるジャーナリストの嘆きを今でも思い出す。
「先生ね、私らの頃は、社会の為と思って、足使って、必死に動きまわって、情報を集めたものですよ。だけどね、今の若い奴ら、足も使わないし、裏も取らない。こんなジャーナリズムはおかしいです。」
その方はお亡くなりになられたのだが、この記事を読んでいたら、、ため息が聞こえるようだ。
この記事にはいくつかの疑問点がある。
1.うつ病という概念
まず、うつ病という概念をきっちり定義しているかどうか、すなわち、データ、母数が正しいのか?
現在、巷で言われているような新型(非定型?)うつ病や適応障害、抑鬱状態という診断名をカウントしているのか?それは、たんなる診断書なのか?DSMなのか?ICDなのか?
現場で治療を行っている我々にとっては、この、第1行の文章自体の意味がわからん。
そう鬱病(MDI)って知ってるのか?
2.長引く不況~時代の考証は?
不況、これは確かに一因としてあると私も実感している。しかし、考察が足りなさすぎる。
そもそも、バブルがはじけた辺りから、日本の社会は大幅に変化を遂げている。
それ以前からも、日本は村社会から、アメリカ型の個人主義社会に変貌を遂げてきた。
しかも、バブルの崩壊で日本はおかしくなっている。
特に私としては女性の価値観、役割に大きく変化が起こっていると考えているので、
一番大変なのは女性だと考えている。
村社会の時代は、女性は、子供を育てて、一人前にすれば、それで安泰する世の中であった。
すなわち、我が子を一人前にすれば、老後も子供達が支えてくれる社会である。
しかし、男女平等、雇用などの問題を経て、女性が社会進出するようになり、
女性の人生に対する価値観は急激な変化を強いられた。すなわち女性のアイデンティティーが
問われる事になったのだ。
多くの女性が、ここで転換期を迎え悩むようになる。
母親としての役割、社会人としての役割。両立するのは大変なことであるし、
経済的にも企業にとっての損益を理に、不平等を被る立場であった。
村社会は終わりました、では、女性の皆さん、生き方を考えてください、そういう暗黙の
風潮が流れる社会となった。
そこにバブルの崩壊である。
それまで、サラリーマンは終身雇用制度、良い大学を出て、良い企業に入社すれば、
後は、能力の差が多少あっても安泰という社会概念が崩れた。
外資系の会社が進出してきたのもある。能力が無いと判断されれば、解雇なのである。
追い打ちをかけるように、政治家や官僚の、利権にまみれた社会が目の前にさらされている。
子供達は、若者は、一体、何を夢見たら良いのか?
奴隷の様な、企業の言いなりになる人生からの脱却であるという利点もあるものの、
自分のやりたいことがわからないという若者が多いのも事実ではある。
私は全てを社会のせいにする考え方は好まない。それは、あまりにも多責的すぎると思うし、
個人の可能性を逆に封じてしまうからだ。
しかし、国のエリートとされる、政治家、官僚にしたって、利権の嵐だ。
やりたいことがわからない、そういう若者が増えて当然の社会だと思う。
一体、何を夢見れば良い?
そういう考察はないのか??
3.新型抗うつ薬とのありかた
をいをい、、、、、
ちょっと待てと言いたい。
軽症の鬱病に、新型抗うつ薬を使うとのこと。
現場、知らないなとまじで思います。
まず、診断が明確になっているのかと言うことをはっきりさせるべきだし、
SSRI等の事を言っているのだとしたら、、、
軽症のうつと中等症のうつの違いをどうやって見分けているのですか?あなたは?
本人の言質ですか?家族の言質ですか?
精神科医は、軽症の鬱でも、SSRIを使っているとお考えですか?
たぶん、この記事も、冨高先生の仰っていることをマスコミが、都合の良いところだけ取って、
記事にした可能性が大きいと思っています。
4.訴訟社会のありかた
これは、小児科、産婦人科でも同じ事が言えると思うのですが、、、
「軽症のうつは自然に治ることが多い。」
その言質はある意味正しく、人間の自然治癒力でもあります。
ただ、患者さんとのラポールを築けなかったり、「目を見て話さない精神科医」(これは後日、記事でその理由をアップしようと考えています。)が多いのも事実です。
そのばあい、どうしてもエビデンスありきの治療になるのもやむを得ないという現象が起こります。
つまり、軽症とエビデンスで判断されても、自殺されたら、なぜ抗うつ薬を投与しなかったのかという議論になってしまうのです。多くの精神科医が軽症の鬱に対して、守りに入っているかということも、ここでは吟味されていません。では、軽症の鬱とはどういう診断基準なのですか?
希死念慮の有無ですか?エビデンスがお好みなら、某国の統計では、「死にたい」と考える若者のパーセンテージくらいご存じでしょうね?それともいわゆる新型鬱病ですか?それは甘えですか?社会の責任ですか?性格ですか?
その辺が明確になってないのに、議論のまな板に載せる意味がわからない。
これは初診の時にいかにクライアントに対して、明確な治療方針、ラポールを築けるかということにもなるのですが、、
強いて言えば、「長引く不況」を引用しているところが正しいかも。
だって、この社会構造、ますます、人が夢を見れない社会になってますからね。
利権が暗黙になっている社会を司る人達、あなたたちは、自分の子供達の世界を描いていますか?
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